近年、特定の食べ物でアレルギーを起こす人が増えています。ここ10~20年間にアレルギーを発症する人がわが国を含めた先進国を中心に増加しており、社会問題にもなってきています。

患者の年齢分布

参考:アレルギーの原因食物

特に、乳児期の発症が9割以上を占め、保育園、幼稚園、学校での給食などにも関係することなので、社会的な対応も求められています。
これに対して政府は、食物アレルギーのある子どもについて、保育所や幼稚園が医師らと連携しながら適切に対応する体制を整備し、「保育所におけるアレルギーガイドライン(仮称)」を策定して各都道府県などに配布する予定としています。
化学薬品やダニ、花粉などによるアレルギーの発症もありますが、アレルギーの原因の1/3は食品によるものです。

 

■食物アレルギーの発症機序

アレルギー症状が起こる仕組みアレルギー体質の人では、免疫グロ ブリンであるIgE抗体をつくりやすい傾向があり、摂取した食物の特定のたんぱく質(抗原・アレルゲン)とこのIgE抗体が結合(抗原抗体反応)すると、肥満細胞に作用してヒスタミンなどの炎症を引き起こす化学伝達物質を放出させてアレルギー反応を引き起こします。
多くは食物を摂取した後、2時間程度で現れる即時型反応を示しますが、やや遅れて症状が出ることもあります。

厚生労働省では、食品によるアレルギー疾患予防の観点と、アレルギー症の人も安心して加工食品を食べられるように、特定の食品7品目の表示義務18品目の表示推奨を発表しています。

■アレルギー物質を含む食品の表示

  1. 表示義務付け特定原材料(7品目)
    卵、乳、小麦、えび、かに(発症例数が多い)
    そば、落花生(重篤で生命に関わるため要注意)
  2. 表示推奨特定原材料(18品目)
    あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン(牛肉、豚肉由来多いが、単独表示の要望)

<省令 / 通知 による規定>

規定 特定原材料等の名称 理由
省令
表示義務
卵、乳、小麦、えび、かに 症例数が多いもの。
そば、落花生 症状が重篤であり生命に関わるため、特に留意が必要なもの。
通知
表示を奨励
(任意表示)
あわび、いか、いくら、オレンジ、ウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご キ症例数が少なく、省令で定めるには今後の調査を必要とするもの。
ゼラチン 牛肉・豚肉由来であることが多く、これらは特定原材料に準ずるものであるため、既に牛肉、豚肉としての表示が必要であるが、パブリックコメントにおいて「ゼラチン」としての単独の表示を行うことへの要望が多く、専門家からの指摘も多いため、独立の項目を立てることとする。

表示方法としては、「小麦粉」のように個別で表示される場合と、「香料(乳成分・卵を含む)」「(原材料の一部につき、豚肉、ゼラチンを含む)」などのように記される場合があります。
また、加工食品に、例えごく微量でも上記7品目のたんぱく質が含まれている場合には、原材料名に「エキス含有」「5%未満」というように表記しなくてはなりません。

表示されるものは、

  1. 箱や袋で包装された加工食品
  2. 缶や瓶詰の加工食品

です。
一方、表示されないものは、

  1. 店頭で計り売りされる惣菜・パンなどその場で包装されるもの
  2. 注文して作るお弁当
  3. 容器包装の面積が30cm2以下の小さなもの(可能な限り表示する)

表示対象外となっていますので注意が必要です。

また、上記の食品以外でも、残留農薬ポストハーベスト農薬などがアレルギーの原因になることもありますし、遺伝子組み換え食品の新しい遺伝子から生まれたたんぱく質が原因になるとも言われています。また、一部の食品添加物にもアレルギーの原因になるものがあります。

アレルギーが心配な人は、食品表示を細かくチェックして、アレルギー反応を起こす食材は、基本的には避けるよう心掛けてください。
卵や牛乳などのたんぱく質アレルギーの場合は、素材そのものより、卵を産んだ鶏や牛乳を搾った牛の置かれた環境に大きく影響されている可能性もあります。
鶏の餌に酸化した魚粉などを混ぜていれば、それが卵の成分にダイレクトに反映されます。同様に、牛も農薬を多く含んだ草を食べていれば、その成分が牛乳に出てしまいます。
ですから、どんな環境で飼われている動物からとった食材か、それを見極めることも大切になります(トレーサビリティ=追跡可能性)。
卵の場合、加熱調理してアルブミンなどのたんぱく質を分解すれば、アレルギー成分が減少し、アレルギーが出にくくなると考えられています。
野菜や果物などの植物性食品のアレルギーの場合、非常に個人差が大きいものです。基本的には、アレルギーを起こす食材を避けることが大切でしょう。
食品によるアレルギー疾患と離乳期の食事には密接な関係があります。人の腸は生後1年前後で完成するため、それまでは母乳や人工乳のみで育てるのが望ましいのです。
腸内にたんぱく質分解能力がない生後4~5ヶ月頃から、離乳食としてたんぱく質を摂取するとアレルギー疾患になる可能性が非常に高くなるといわれています。
また、大人になってからでもアレルギー疾患になる危険性は充分にあります。そもそもアレルギーというのは、自己成分でないものに対する1つの生体防衛反応です。食べ物も本来は人間の体にとっては異物です。それを自分の体の成分にするには、消化して人間の体にない化学構造を持つ物資(アレルゲン)を完全に壊してしまわないといけません。要するに、豚や牛、魚という特徴のある化学構造を壊すことが、胃腸での消化という重要な役目なのです。
そもそもアレルギー反応が起こるのは、血液中に自分のものでないたんぱく質が侵入してきた時ですが、本来は口から入ったたんぱく質は、アミノ酸という非常に低分子の原料にまで分解されてから血中に吸収されます。
どんなたんぱく質でも、原料となるアミノ酸は共通で、アミノ酸レベルまでしっかり分解された状態では、元のたんぱく質が何であろうとアレルギーは起こりません。それなのに、実際には食物アレルギーを持つ人が多いのは、外界からのたんぱく質の分解が途中のまま、血中に入り込んでしまうからです。

現代人の“よく噛まない食習慣”は、この消化機能を弱め、食物の不完全消化によるアレルゲンを作り出しやすくなります。

これはまた、全身の免疫機能を低下させ病気に対する抵抗力を弱めることにもなります。

上記の特定食品の摂取には十分注意しながら、“よく噛む食習慣”を身につけ、消化能力を高め、免疫力を高めるためにバランスのよい食生活を心掛けましょう。